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1946年9月、焦土と化した東京都内にて、食糧難と住宅難と就職難の中、運良く生き抜いた両親の新しき時代の一発目として生を受けるも、一年未満で感染症にて死にかける。生き延びたのは、ご近所に住む朝鮮人女性のもらい乳と父親がやっと手にした本の印税全部を叩いて進駐軍から手に入れたペニシリンのおかげであったらしい。ここまでは当然記憶にない。記憶になくても疑えないことである。 物心がついた頃には理系少年になっていた。それが何故なのか定かではないが、誤魔化しうるコトバより、誤魔化しえない数や図形に安堵を覚えたのかもしれない。言葉というものが、単なる記号ではなく、実は世界を分節し、意味と価値の認識それ自体をも可能にするものであることに気付きはじめたのは50歳を過ぎてからであった。 30年間程の企業勤めの後、現在は知の世界に遊ぶ自称哲学徒、通称孫が気になる普通の爺~じ。ブログには庭で育てている薔薇の写真も載せました。

2020年9月12日土曜日

9月12日(土)『地球のからくりに挑む』大河内直彦著(新潮選書)

  本書の目的は、エネルギー問題を考え直すことだと「まえがき」に書いてあります。環境・エネルギー問題は半世紀ほど前から世の中で認識されはじめて、多くの研究や著作がなされ、国際的なルール設定も試みられていますが、著者が1966年生まれの地球科学者であるということなので、面白そうなところをアレンジしながら手短に纏めてみました「」は本文引用。私の補足や考えなどは(⇒ )で書きました。

ハワイ島の夕日

第1章 地球の定員

 地球上には数千万種の生き物が暮らしているけど、生態学的に見れば、太陽エネルギ-を先ず植物が光合成によって固定し、その植物を草食動物が食べ、草食植物を動物が食べて命をつないでいる。その生命の輪の中の一つの種である人類だけで、そのうちの0.7%を摂取するのは過大でしょうね(⇒過大の説明が必要なことは承知の上で)。現実の世界人口は、人間が開拓してきた農耕地の生産量で規定されている(⇒人間自身で規定している)。

第2章 窒素固定の魔術

 科学技術の知識によって窒素肥料をアンモニア合成で大量に作ることに成功しなければ、現在の世界人口は30億人くらいだろうと言われている。アンモニア合成工場の稼働に必要なエネルギーは大型原発150基分に相当する。食料生産にも莫大なエネルギーが必要となる。

第3章 エネルギーの現実

 世界のエネルギーは、大雑把に言えば80%以上が石油・石炭・天然ガスといった化石エネルギーで占められていて、残りが原子力及び水力などの自然エネルギーとなっている。

第4章 化石燃料と文明

 近代文明は近代科学技術によって支えられ、その科学技術を駆動するエネルギーは主として化石燃料である。

第5章 人工燃料の時代

 液体である石油は固体である石炭よりも、使い勝手が良い。特に兵器の動力源としてはこの差は決定的となる(飛行機の例は分かりやすい)。だから、石油のない国では石炭のガス化や液化が大事な技術開発テーマとなった時代があった(⇒石炭は採取可能量としては圧倒的に多いのは今でもそうだろう)。

第6章 大論争の果て

 石油の由来は有機物か無機物かという論争に決着が付いたのは比較的最近(1970年以降)で、地質学者と天文学者達の間での感情的な対立をはらみながらも、証拠を出し合って対話を続けた結果だった。そしてその証拠とは、微量な元素の同位体分析などの先端技術が進んだことによって得られたものであった。18世紀には有機説、19世紀には無機説が唱えられたが、何れも仮説に過ぎなかった。現在は有機説が正しいと理解されているのだが、この結果だけに注目すると見えるものも見えなくなる。というのは、実は2011年時点においては少量だが無機成因の天然ガスや石油も存在することも認識されている。

第7章 赤潮の地球

 石油は今から一億年ほど前に、100万年ほどかけて海底に積もった有機物のヘドロが熟成されて出来たものだった。このヘドロが長い時間をかけて固まったのが「黒色頁岩」(コクショクケツガン)で、これに水を加えて酸素を絶って300℃で煮ると石油が出来る。このヘドロは、シアノバクテリアというプランクトンの異常繁殖によって生じた赤潮で、それは今でも起こっている(赤潮は、紅海という名前の由来)。生き物であるプランクトンは必ず死ぬから、その死骸はバクテリアによって海中の酸素を使って分解される。だが、死骸が多すぎると海中酸素が消費し尽くされて分解されずにヘドロとなって海底に沈積する。一億年前に発生したこの事件は「海洋無酸素事変」と呼ばれている。この事変をもたらしたのは、突如として発生した桁外れに大規模な噴火活動であった。それは太平洋の真ん中にある「オントン・ジャワ海台」として残っている。この噴火による海の環境の変化は、海面付近の生態系に大きな変化をもたらし、多くの生物が死滅し、その結果シアノバクテリアが異常繁殖したのだ。

 本章では、この「オントン・ジャワ海台」を形成した桁外れに大規模な噴火活動についての説明がかなり詳しく述べられている(⇒というのはこの噴火活動の原因は、現在見られる火山の噴火活動とは違って、今そのようなことが起これば人類文明に壊滅的打撃を与えることは必定に思えるほどの、地球史上の凄まじい現象の一つだったからだろう)。それは、地球のはるか深部から直径数千キロメートルの熱を帯びた物質(マントルプルームと呼ばれている)が、マントルの中をゆっくりと湧き上がってきたことが原因であった。類似の現象の痕跡は地球上の多くの場所で見ることが出来る。マントルプルームが地球の薄皮のような表層に到達すると、そこにある地殻物質を沢山溶かして(⇒ここは、岩石成分と水の化学反応の知識が必要)マグマを生じさせ、桁外れに大規模な噴火活動が発生したのだ。その際には、地球が形成されてから長らく地球の深部に閉じ込められていた物質が噴出した(⇒マントルの主成分であって地殻にはないカンラン岩と一緒に出てきたのだろう)。それらの物質が地球に及ぼした影響の痕跡や、その物質の分析から新たな発見がなされている。例えば、黒色頁岩にほんのわずかに含まれる鉛やオスミウムの同位体比は地表のそれとは違っていた。つまり、黒色頁岩が、地球という星の内部に長らく閉じ込められていた宇宙のかけらの成分元素もふくんでいることの証なのだ。炭素もその一つで、例えば、当時の地球が南極や北極も森林で覆われるほど(⇒地質学的証拠は沢山あるのだろう)温暖化した原因は、地球の深部から放出された莫大な二酸化炭素にあるのだろうと推定されている。

第8章 石炭が輝いた時代/第9章 燃える水 は省略

第10章 炭素は巡る

 地球と宇宙の間では、エネルギーについては開放系(太陽の輻射熱と宇宙への熱放射)だが物質については閉鎖系(隕石は除く)だ。大気を含めた地球の中で循環している主な物質は、二酸化炭素と有機物と酸素と水で、これらは、地球サイクルと生物サイクルの二つのサイクルで循環している。と同時に、この二つのサイクルの間には、二つの架け橋がある。火山活動と堆積岩の地中への取り込みだ。そして人類はもう一つの橋を架け、自らの生存を脅かす環境を作り上げていると言える。

 地球サイクルから生物サイクルへは、火山の噴火による地中からの二酸化炭素の噴出がある。生物サイクルから地球サイクルへは、バクテリアの分解を受けずに固化した有機物由来の堆積岩の地球内部への取り込みがある(プレートの運動に伴って)。人類によるもう一つの架け橋は化石燃料の採掘と燃焼だ。このもう一つの架け橋は、生物サイクル内での物資バランスに変調をもたらし、人類の視点から見れば不都合な現象を生じさせている。つまり大気中の二酸化炭素の増加による温暖化だ(⇒より本質的な不都合は気候変動)。因みに、大気中の二酸化炭素の増加とともに、酸素濃度は年間3ppmずつ減っているのも当然の帰結言える(⇒バクテリアは酸素を使って有機物を分解して二酸化炭素と水にするから、水になった酸素分だけ減ることになる)。1万年後に人類の脳が酸欠状態になる前に電気エネルギーで水を電気分化すれば良いとしても。

 いずれにせよ、大増殖したヒトが地球の自然な営みを攪乱していることには違いはない。問題の本質が、「私達人類の活動」にあることは明白な事実である。

第11章 第三の火

 第三の火とは原子力のこと(⇒第一の火は燃焼、第二の火は電熱線の発熱などのこと。ここでは原子力発電の内容や今日的課題の記載は省略して、それとは関係がないけど地球化学的に面白かった部分を、一点だけ抜粋して記載した)。

 地球内部に由来するエネルギーは、46億年前に宇宙のかけらが衝突を繰り返すことで貯められた熱エネルギーの他に、その時に閉じ込められた微量の放射性物質(主にウラン)の崩壊による核エネルギーがあって、後者の定量的データがニュートリノを用いた最近の研究で測定された結果、単位時間あたり発生量は前者由来の熱伝達量に匹敵することが判明している(⇒著者の別著『地球の履歴書』で紹介されていた兵庫の有馬温泉の事例からも推定されるように、温泉の熱源はこの二つであったのだ)。因みにこの地球内部の核エネルギー発生量は、人類が年間に消費している全エネルギー量を上回り、原子力発電量の20倍くらいとのこと(2008年)。

第12章 おわりに

 「将来のエネルギー像を描くにあたって、慌てすぎてはいけない。三途の川の賽の河原で一服して、これまでの歩みを思い巡らすくらいの余裕があってもいい。十九世紀のドイツ統一を成し遂げた宰相オットー・フォン・ビスマルクの言葉で、本書を締めくくることにしたい。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」」