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1946年9月、焦土と化した東京都内にて、食糧難と住宅難と就職難の中、運良く生き抜いた両親の新しき時代の一発目として生を受けるも、一年未満で感染症にて死にかける。生き延びたのは、ご近所に住む朝鮮人女性のもらい乳と父親がやっと手にした本の印税全部を叩いて進駐軍から手に入れたペニシリンのおかげであったらしい。ここまでは当然記憶にない。記憶になくても疑えないことである。 物心がついた頃には理系少年になっていた。それが何故なのか定かではないが、誤魔化しうるコトバより、誤魔化しえない数や図形に安堵を覚えたのかもしれない。言葉というものが、単なる記号ではなく、実は世界を分節し、意味と価値の認識それ自体をも可能にするものであることに気付きはじめたのは50歳を過ぎてからであった。 30年間程の企業勤めの後、現在は知の世界に遊ぶ自称哲学徒、通称孫が気になる普通の爺~じ。ブログには庭で育てている薔薇の写真も載せました。

2022年10月13日木曜日

『イラク戦争と自衛隊派遣』(東洋経済 2004年4月 森本敏著)

あゆみ
 読んだ動機は2003年3月に始まったイラク戦争(米権の呼称では「イラクの自由作戦」)の意味を知りたかったからだ。本書を選んだのは出版社と著者に対する信頼です。信頼とは叙述に虚偽がないだろうということについてであって、本書の主張に対する賛同ではない。(⇒)内は私の補足。

米英とイラクとの戦闘はわずか21日で終了したが、2022年10月時点でもイラクは自律した統治がなされてはおらず崩壊国家ともいっても良い状況である(日本の外務省基準で危険度4~3の地域)。駐留米軍は2021年末には「戦闘終了宣言」をしたが、その後もISILなどによるテロが継続しているため米軍の撤退も完成されていない。

本書では、バクダット陥落までの米軍の作戦を第一期作戦と呼び、米軍占領統治以降を第二期作戦と呼んでいる。第一期作戦は実質21日で終わり、第二期作戦は本書の出版時点(2004年春)で継続中だが、占領政策の最中の作戦で戦う敵はテロリストと称される人々(イラク軍残党及びイスラム過激派アルカイダなど)となっている。

本書の記述から読み取れた、上記の読書目的から発せられた問いに対する結論は以下

  • 米国がイラク戦争を始めた理由は、2001年3月に米国で発生した同時多発テロが直接の契機となって、ブッシュ大統領が言う「テロとの戦い」という新しいタイプの戦争を行うことにしたことである。このタイプの戦争とは次のようなものとなるようだ
    • 戦争の相手は主権を持つ国家も対象とする
    • テロの予防という予防戦争という性格を持つ
    • 国連安保理決議など国際社会における合意は必要条件ではない
    • 「大量破棄兵器」を国際社会の承認なしに持つ国家は、予防戦争の対象となる
    • 「大量破棄兵器」とは核兵器、生物・化学兵器(⇒今のところ)
  • 従来の国際秩序の常識から判断すればイラク戦争の正当性は怪しいが、国際的テロ防止行動の必要性は世界が共有している
    • イラク戦争は国際法違反で国連のルール違反(安保理決議出来ず、ロシア、ドイツ、フランスは反対表明)
    • 「大量破棄兵器」は見つからなかった(実際保持していなかったらしい)、核兵器不保持・不製造の証拠は再三の開示要求にもかかわらず拒否(だからといってテロ予防戦争が正当化できるとは言えないだろう)
    • 国際テロ防止のための国際貢献に資する予防戦争というよりは、米国を標的にしたテロ再発防止の意味合いが強い
    • 第二期作戦状況は、米軍の戦闘作戦がむしろスンニ派イラク軍残党を国際テロ組織に追加することになるかもしれないことを予感させ、テロ予防戦争としての目的が果たされるかは疑問
  • イラク戦争の結果、国際秩序維持を主導する米国という構図は不変としも、米国一極支配ではなくなり、その内容も変質する。ポイントは米国との同盟の意味が変化すること
    • イラク戦争開始についての安保理決議は出来ず、米英連合が単独で開戦することになり、国際安全保障に対する国連の機能には限界があることが露呈した
    • 米国にとっての同盟国の基準は、冷戦期は共通の敵(ソ連)、ソ連崩壊後は民主主義・人権・自由・市場経済という共通の価値観(⇒価値観の違いが対立の根拠となるならば、それは歴史の逆向と思うが)
    • 同時多発テロ以後は、上記のような基準に次のような項目が付け加わった。すなわち「米国と共同でテロ防止行動を取るか否か」
    • つまり、テロ集団やテロ支援国、大量破壊兵器の開発・拡散に関わるネットワーク・国などに対して、米国とともに戦う国だけが米国の同盟国とみなされることになった
  • イラク戦争第二期作戦中、イラク戦争の戦後復興は、国連の事後承認的措置によって、米国以外の国家も参加している(経済、治安維持等々)
    • 経済援助は330億ドルで、その内世界銀行とIMFで55~92.5億ドル、米国が203億ドル、日本は米国に次いで国家単位ではダントツの50億ドル
    • 治安維持(大部分はテロ対策)に他国の軍隊が参加、日本は戦後初めて自衛隊がサマワに派遣された(急遽作られたイラク人道復興特別措置法に基づき)
  • 日本の安全保障は米国との同盟関係によって可能となる。そしてこの日米間の同盟関係の吟味が喫緊の課題
    • 背景には国際政治構造の歴史的転換がある。すなわち、冷戦終了、ソ連崩壊、そしてテロとの戦いという「新しい戦争」形態の出現
    • イラク人道復興特別措置法は、米国との同盟関係を重視する小泉総理大臣が急遽作ったもので、自衛隊が国連決議とは別に国際テロ防止戦争に米国同盟として参加可能とするものとなっているが、PKO協力法とは異質なものである
    • イラク戦争におけるイラク人道復興特別措置法の適用は、自衛隊がテロ予防戦争に参加する正当性の観点や、派遣される自衛隊員の安全等に関わる諸問題がある
    • 本書の帯には「日本の国際貢献はこのままでいいのか!」と記されている。つまり、変化した国際情勢に現実に対応するには、日本は米国と強固な同盟を組み、国際テロ予防戦争に軍隊を派遣することを含めた国際貢献をすることである、と
  • 著者の提案は、憲法改正が前提となるが「下限が見えないなら上限を実行できる能力を持ち、政治的に国際情勢に応じて必要且つ合理的な政策を選択をする」こと(P307~P308)
    • 上限とは「英国のように、軍事面で「全世界で全方位の作戦でともに戦う」こと
    • 下限とは、現時点では「自衛隊が現在の憲法の枠内で(⇒ 「イラク人道復興特別措置法」法の改良・追加版の下で)国際貢献をすることだが、それでは不十分だろう
    • 適切な下限とは、日米同盟を破綻させずに、軍事同盟以外の経済的・政治的な適切な支援政策をとることだが、それは現在明確ではない
  • (⇒雑感を少々)
    • 著者は1941年生まれ、防大卒自衛隊出身(⇒三等空佐=少佐)で外務省勤務等を経て民主党の野田政権時に民間出身初の防衛大臣を務めた軍事・外交の専門家なので、その主張には傾聴すべきところがある
    • 素人が現代の軍事戦略・技術上の知識を得るには大変役立った。米軍の軍事力は圧倒的(⇒多分現在も進歩を継続中)
    • しかし、国際テロ対策に関しては国際的な協力の枠組みが必要としても、軍事・政治・経済・文化政策の国際的対立ではなく、協調・合意・許容が効果的だろう
    • イラク戦争当時のように、「悪の枢軸国」などの標的を設定して、これを圧倒的軍事力でたたくというような戦略は、現在進行中のロシアのウクライナ侵攻と同様に古びた戦略であり、対国際テロ対策としても有効ではないだろう
    • 恐怖と不安が戦争を生み、生きて行けない絶望がテロを生むのが歴史の教訓だ。これらを取り除くのは、イソップ物語に出てくる北風(戦術)ではなく太陽(戦略)であり、現代の政治的状況に於いてはこれは最も効果的な戦略であろう
    • 日本の将来は、共通の価値観に立つ米国を巻き込んで、この戦略を戦術に、そして政策として率先実行出来るかどうかにかかっている。これこそが「日本の国際貢献」だと思う。