自己紹介

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1946年9月、焦土と化した東京都内にて、食糧難と住宅難と就職難の中、運良く生き抜いた両親の新しき時代の一発目として生を受けるも、一年未満で感染症にて死にかける。生き延びたのは、ご近所に住む朝鮮人女性のもらい乳と父親がやっと手にした本の印税全部を叩いて進駐軍から手に入れたペニシリンのおかげであったらしい。ここまでは当然記憶にない。記憶になくても疑えないことである。 物心がついた頃には理系少年になっていた。それが何故なのか定かではないが、誤魔化しうるコトバより、誤魔化しえない数や図形に安堵を覚えたのかもしれない。言葉というものが、単なる記号ではなく、実は世界を分節し、意味と価値の認識それ自体をも可能にするものであることに気付きはじめたのは50歳を過ぎてからであった。 30年間程の企業勤めの後、現在は知の世界に遊ぶ自称哲学徒、通称孫が気になる普通の爺~じ。ブログには庭で育てている薔薇の写真も載せました。

2020年8月26日水曜日

8月26日(水) 『三つの石で地球がわかる』 (講談社ブルーバックス) 藤岡換太郎

リモンチェッロ
  石とか岩石の種類や名前は沢山ありすぎてよくわからないので、すこし系統立てて説明してくれている本を探していたら、本書があった。つまり三つの石で地球が分かる、と言う書名の本。
 
 地球の生い立ちに興味を抱いている人なら誰でも、岩石を知ることでそれに迫れるのだと分かればちゃんと読む根気が出てくる。それは、原理や始原に遡って現在を理解できるとナットクするという人間の知性の性質のせいだろう。

 本書の理解に必要な科学の知識は義務教育レベルで十分だが、物質の三態(気体・液体・固体)は晒されている環境(温度や圧力など)によって決まることについては少し復習しておいた方が良いかもしれない。また、分子や原子が組み変わって他の物質になるときの化学反応の知識や原子の構造と核物理学や同位体の知識などを知っていると理解が深まる。

 宇宙の開闢とはどのようなことを意味しているのかについては一言でいえば調査中だ(これからも引き続いて)。だが最初の物質は水素で、その後は要するに核反応で大きな原子が生じてそれが集まって分子が生じてそれが集まってもっと大きな物質が生じてついにそれが第一世代の恒星になって、その恒星が重力で馬鹿みたいに重くなってきたところでなにしろ爆発して(観察されている超新星爆発だが、どうして爆発するかは一言でいって調査中)折角集まっていた物質が宇宙にばらまかれてはじめからやり直しとなって、私達地球が誕生した太陽系の太陽という恒星は第三世代の恒星なので地球もその頃出来た(46億年だと言えるのは同位体分析のお陰)ことになるから、我が地球の構成物質はこれこれである、ということになる。

 ここで、これこれのものの始原とはざっくり言えば岩石と鉄と水である。といっても、それから今日まで長い年月の間に地球の全体や部分が晒されていた条件はさまざまに変化してきたし、いろんな物質が飛び込んできたりしたので、はじめの灼熱地獄状態では液体であった岩石は自然法則に従って、いろいろな内容を持った固体の岩石となっていった。鉄は一番重いから地球の中心に、その次は比重の重い順にカンラン(橄欖)岩、玄武岩、花崗岩、という三種類の岩石に取り巻かれて地球の基本構造がまず最初に出来た。カンラン(橄欖)岩はマントルを構成し、玄武岩は海洋の地殻を構成し、花崗岩は大陸の地殻を構成している、というふうになる。他のいろいろな岩石はこの三つから生まれてきたもの、逆に言うとその生まれてきたプロセスの解明は地球の進化プロセスの解明なのです。

 岩石が固いのは結晶構造を持つからで、結晶で特徴的なのはシリカを中心にして四方に酸素が配置されている正四面体構造で・・・etc。etcの部分は書けばキリがないから、この辺でやめておくね。なんで海洋地殻と大陸地殻が区別されるの、とか、身の回りの物質は岩石だけではないでしょ、とか、マントルとマグマはどう違うの、とか、生命を構成してる炭素はどうなっているの、とか、まだ沢山疑問がありそうだけど、それぞれ解明が進んでいるので、勉強してみると面白いと思う。

 岩石には地球の歴史が閉じ込められていること自体がわかってきたのも、その岩石を分析できるようになってきた近年の科学技術の進歩のお陰であることも知ると、科学的事実というものは証拠に基づいて判断されていることが良く理解できます。




2020年8月7日金曜日

7月28日(火) 『地球の履歴書』大河内直彦著

咲き残ったお姫様です

 地球科学の知識は、人間が地に足をつけて暮らしている限り興味は尽きないものだと思っている。そこで、最近の地球科学はどうなっているかしら、と2013年初出の本書をとりあえず読んでみた。

  ナルホド、技術が進歩してお金も使えるようになり、この手の知識が軍事機密にされることも少なくなり、いろいろなことがわかってきたらしい。新しい技術とは、例えば音波や電波などを利用した未知の地形測定(海底地形、氷下の南極大陸地形などが正確・迅速・広汎に)、宇宙からの観測技術(地上の位置や高度測定など、海面高を測定して海山の位置を驚異的早さで特定したりも出来る)、深海探査船(人も乗れたり)、海底掘削船(岩石サンプルを採取したり、そのうちマントルも?)、分析技術(物質分析、放射線分析、微量分析、多角的照合等々)、コンピュータ(3D作図、膨大データ迅速比較・解析・シミュレーション等々)・・・。

 46億年前の地球誕生、つまり宇宙空間で物質同士の衝突(重力法則で引き合うから)による灼熱した原始地球の誕生以来の(衝突で運動エネルギーが熱エネルギーに変換して灼熱地獄に、が今の地球に引き継がれ・・・)、地球の核やマントルや地殻や水や大気の生成、マントル対流と地磁気の発生、陸と海の出現、プレートテクトニクス理論や関連しての大陸分裂移動現象・造山活動・火山・地震などの基本的諸現象、水と水蒸気の循環、地質年代(生命誕生以降の区分)の概要等々の基本事項を除いて、新しい知見の中で印象に残った箇所を抜粋して書いてみた。地球温暖化(気候変動)については同じ著作者による別の本『チェンジングブルー』が良さそうなので、そっちを読んだら日記に書いておく予定。

*地表の70%を占める海の底の地形が手に取るようにわかるようになってきて、海に潜む巨大火山活動の存在が知られるようになった。平坦だと思っていた大洋の底はダイナミックなマントル対流の運動によって生じるマグマ活動(噴火も含む)で起伏に富んでいて、10000個ほどの海山が発見されたが、その大半はこの10年ほどだそうだ

*噴火によりおなじみの火山とは区別して「巨大火成岩石石区」と名付けられた強烈なマグマ活動の証拠が確認されている。絶滅した種を含めて、全生命に対するその影響は想像を絶するものであったろう・・・未来においても。「オントン・ジャワ海台」(日本の南方赤道域の海底にある)、アメリカの「コロンビア川洪水玄武岩」、ロシアの「シベリア・トラップ」、インドを広く覆う「デカン・トラップ」など

*「巨大火成岩石石区」の凄まじさの事例①「オントン・ジャワ海台」。それは丁度チベット高原が海に沈んでいるような規模で、高さ3000mもびっくりするが、驚くべきことに30kmの深さを持つ「根」を持っている。そこでは、100万年にわたり次々とマグマがあふれ続けて、その噴出物の規模は、20世紀最大と言われるフィリピンのピナツボ火山の噴火による一年間の噴出物の6倍量が平均して一年間に噴出し続けたとして100万年分の量!(多分そういう意味だろうと読んだけど)

*「巨大火成岩石石区」の凄まじさの事例②「デカン・トラップ」。地球科学的年代に見れば比較的最近である6600万年前に突如として溶岩が流れ出したもので、その随伴火山ガスによる気候に対する影響だけを想像しても、生命体に対する大混乱は容易に想像できる。因みに、インド大陸がユーラシア大陸に衝突し始めたのはその少し後の5000万年前で、ヒマラヤ山脈はその力で押し上げられたという有名な話は割愛する(ついでに言っておけば日本の伊豆半島と富士・箱根の・丹沢山塊の関係も同じ)

*「オントン・ジャワ海台」などを生んだ火山活動は、温暖化していた白亜紀に一時的な寒冷化を引き起こした。その影響により海水の循環が止まって海が澱み、海水中に溶解している酸素濃度が減少し、沼化した海に沈殿堆積した有機物が石油の元となる黒色頁岩となった。以上のいきさつはスーパーコンピュータを用いた気候シミュレーションが見事に説明したそうだ(地球を物質とエネルギーの循環システムとして捉える手法なのだろう)。白亜紀とは、1億4500万年前~6600万年前の地質年代区分のことで、その時代が温暖化していたというのは、4000万年前から始まった地球史上6番目の氷期であるそうな現代との比較での話。白亜とは大量の石灰岩(白色で珊瑚礁が源)の地層を元に名付けられました。

*地質学的に白亜の地層が終了したことは観測されていたとしても、原因についてはナゾだっただろう。巨大火山噴火とか「巨大火成岩石石区」の生成とか、諸説あったが、1980年に決着が付いた。それは、6600万年前にメキシコのユカタン半島近くの海に巨大隕石が激突したことが証明されたのである。我が世の春を満喫していた恐竜を含めた大量絶滅が発生して白亜紀が終焉したのだと。「地質学者と核物理学者が交わったこの研究は、原子という科学共通の「言語」によって、どんな異分野、いかなるトピックであってもしっかり結びつくことが出来るという科学の重要な一面を教えてくれる」(因みに、地球史上の大量絶滅は5回あって、今のところその最後がこれだそうで、将来、知恵ある唯一の種であると自負する人類が、その知恵が生み出した力によって絶滅したら、なんという皮肉だろうか)

*ほんの100年ほど前に、ノルウエ-人のアムンゼン、英国人のスコット、そして、白瀬大尉などの人びとが国家の威信を背負って未知の南極大陸に挑んだ。今では3000~4000mの厚さの氷で覆われていることが分かっている南極大陸での観測は、地球環境の歴史的事実と将来の予測を教えてくれているようだ。いろいろな観測を可能にするインフラも整備され、西南極氷床の東端のロス島にあるマクマード基地(アメリカ)は観光客を含めて2000人が暮らす町であり、ホテルもあるしカードショッピングも出来る。2005年には、南極点にあるアムンセン・スコット基地(アメリカ)とマクマード基地までブルドーザーで踏み固められた1600kmの道が作られた

*分厚い南極の氷の下の陸の地形や氷床の下にある湖の存在(陸との境目は氷が溶ける温度になっている)が観測され、しかもこの湖は相当な速さで移動することも観測された。西南極氷床の下は陸ではなく海であることが判明している(オンザロックみたい)。だから氷床は重力の法則に従って山から海へ相当な早さで動いている(南極点では10m/年位)から、氷床は当然のごとく氷山となって外洋へ流れ出て溶ける。氷床量は運ばれてくる大気中の水蒸気による積雪とのバランスで決まる。氷床が仮に全部溶ければ海水面は3.3m上昇するが、人工衛星で観測された西南極氷床減少速度から海面上昇速度を計算すると、今のところ年間0.28~0.56mmだ。オンザロックが水割りになって、急激な海面上昇に至らないかどうか観測が続けられている(海面上昇・低下はどこを基準すべきなのか、またそのメカニズムはどうなっているのかは地球システム全体の考慮が必要となる。本書では「アイソスタシー」という、地球表層の加重に対する固体地球(剛体ではない)のふるまいについて記述されているに過ぎないが)

*南極において、地球の生命体を紫外線から守っているオゾン層に穴が空くオゾンホールが実際に存在することが観測され、そのデータは人類に警鐘を鳴らすこととなった。オゾンホールは1980年代以降急激に拡大したが、その後の国際協調によるフロンガス規制などによって現時点では長期的な拡大傾向はみられなくなって、今世紀末には元の状態に回復すると予想されている

*南極氷床を3000m位ボーリングして採取したサンプルから、過去の環境に関するデータを窺い知ることができる。例えば数十万年間の気温なども分かるようになってきた(氷を作っている水の酸素の同位体分析などから)

*だんだん長くなってきたので、ちょっと飛ばして最後に温泉の話。兵庫県にある有馬温泉はすごい、というのは、近くに火山が無いのにホントの温泉(自然湧出)が、しかも90℃で湧いているからだ。この謎の主役は微量な放射性物質にあった。つまり天然に存在するウラン238の自然崩壊に伴うエネルギー放出が長時間にわたり蓄積された結果であるとのこと。有馬温泉には、ウラン238が鉛に自然崩壊するまでに(64億年かかるらしい)経由する多くの核種の内で、比較的半減期の長い核種であるラジウムやラドンが含まれていることが分かっている。つまり、有馬温泉はなんらかの事情で放射性物質を含みながら長ーい時間をかけて断熱的に地下を彷徨った結果熱くなった地下水が、自然に地表に出てきた温泉なのだ(⇒この後読んだ、2017年出版の『三つの石で地球がわかる』(藤岡換太郎著。講談社ブルーバックス) では、有馬温泉の熱源は一億年前に地表近くに上がってきた熱い花崗岩の熱だという説が述べられていたので、諸説あるということで・・・) 。因みに、最近の研究で、有馬温泉の水源は眼前の瀬戸内海をはるかに超えた南方の太平洋らしいことが分かってきたそうな。「温泉とは、地下奥深くでしたためられた手紙を私達の足元にまで運んでくれる郵便なのである」(本書の抜粋)。もう一つ追記したいことは、地球の熱源の一つには、この核種の崩壊も馬鹿にならないこと(あー、ホウカイ)。