あゆみ |
ついでと言っては何だが、パレスチナ問題などに関する著者の短編評論をいくつか集めた『戦争とプロパガンダ』(みすず)のも載せておいた。
●『オリエンタリズム』
ACC講座(朝日カルチャー)で、タリバンによって爆破されたバーミアン石仏修復に携わられたペルシャ学者前田耕作先生の懇切丁寧な解説を聞きながらの読書。内容が濃いので整理してからもう一度記載する予定だが、とりあえず以下のようにメモしておく。
上巻では従来のオリエンタリズムについて、下巻では今日のそれについて述べるとともにオリエンタリズムの再考をしている。サイードは、従来のオリエンタリズムというものは西洋の視点で創られたものであり、実在とは異なっていると主張している。その西洋の視点とは、植民地支配という政治を基本にした差別であり、その創り方は主として言語による表象の積み重ねである、と。その主張の根拠を、学的研究から芸術作品に至るまでその著作者の思想に遡り示している。
サイードのやり方は、ある時代にある集団に属する人間が、同時代の他の集団や別の時代の集団を理解する場合に存在する根本的問題点を提起している。それは、理解に対する政治的動機の関与という問題、理解を言語を持ってすること自体が内在する問題、学問自体が文明に従属するという問題、である。
●『戦争とプロパガンダ』
比較文学を専門とする著者は、パレスティナ難民ともいえる。この本は米国で発生した同時多発テロ前後に書かれた、パレスチナ問題などに関する著者の短編評論をいくつか集めたものであるが、パレスチナ問題についての本質をパレスチナ人自身の問題と米国に代表される西欧近代国家に潜む問題に分けて考察し、その考察には思想家としての現代人間社会に共通する鋭い感性を感じた。小生が蛇足的感想を加えるなら、「近代の国家思想の実現は進行中であり、当然修正しながら進むのだが問題はその修正が本質を失わせることにある」ということをこの本は教えているような気がする。著者は先日67歳で病没された。