パパメイアン |
何故トッドなのかと言えば、かなり前に読書会仲間が、手軽な新書版でトッドを読みたいと提案があって、数冊通読したことが一つ。確か『シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧』『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告』『問題は英国ではない、EUなのだ 21世紀の新・国家論』だったと思う。この三冊に加えて、2000年頃書かれた『帝国以後』(邦訳は藤原書店から2003年出版されている。)が沢山の人に読まれているらしい。いずれも時勢にマッチしていて、短くて比較的安価だからだろう。これらの本には何が書かれているかを知るだけなら、ネットで”書名”と”書評”で検索して、大学の先生などの解説を読めばあらかた分かる。さっきやって確かめてみたが、結構有効だった。
だが、問題は、どうしてそう言えるのか?なのだが、それについては、多分『新ヨーロッパ大全Ⅰ、Ⅱ』をちゃんと読んだりしないと分からないのだろうが、大部なので積ん読になっている。もう一つは、この歴史家・人類学者・とくに人口動態学者であるトッドの『新ヨーロッパ大全』の日本語訳が出版された時に(1992年末頃か)、かの歴史人口学の大家である速水融先生がその本を片手に京大の研究室に入ってきて、結構興奮した面持ちで学生に紹介していた、と磯田道史さんが言っていたからだ。つまり、歴史をデータ(例えば人口構成の推移とか)に基づいて、合理的・客観的に理解する手法を提示ていたという評価があったからだろう。
ところで、本書の重要な結論を端的いえば、次のようになる。もうすこし詳しく知りたければ、冒頭に記したリンクを参照してほしい。
ロシアのウクライナ侵攻という事態を招いた原因はロシアではなくアメリカにある、というのだ。これは西側メディアが連日報道している内容とは真逆だ。更に、すでに第三次世界大戦が始まっている、という文言が表題にもなっている。ドットは、かってソ連の崩壊等を予言したことが知られているから、かなり衝撃的だ。つまり、ロシアにとっては防衛戦争であり、17世紀来のロシア圏内におけるローカルな問題であったウクライナ問題を、アメリカがグローバル化した世界対立へと導いたと。
もうすこし言ってみると、ソ連が崩壊して東西冷戦が終結した事態を”勝利”としか理解できない奢った超大国アメリカが、世界に対して取り続けた「力による問題解決を見せつけることで自国の世界に対する統制力を維持しようとする方法(代表的には弱小国に対する軍事侵攻)」を、大国ロシアに対しても、グローバル化した世界になっている状況において、無思慮・無反省に取り続けた結果、世界を力による対決へと導いているのだと。そうなることは合理的な予測能力に欠けるリスキーな超大国アメリカにとっては、当然予想外だろう。予測できないことは原理的にリスキーなことなのだ。
折角なので、ドッドの専門の家庭構造論で言えば、家父長的共同体家族が構成する権威主義的平等社会陣営と核家族的家族が構成する自由主義的個人社会陣営に分かれての世界大戦がはじまった、ということになる。これに関連した皮肉な話が述べられている。1970年代頃からアメリカの政策に強い影響を持ってきたネオコン陣営の中心に、ある「一族」・ファミリーが居て、彼等は今、過激な反ロシア政策を掲げている。つまり、家父長的共同体家族同士で敵対していることになってしまったのだ。
そうトッドが考える理由は、先に挙げた四冊の著作から読み取れるトッドの思考の延長線上に、今回の侵攻についての具体的事実を重ねて導き出された判断にある。原因の追及が再発防止対策のためなら、どちらの見解が正しいのかについて、将来にわたって継続的に冷静に吟味しつづけねばならないだろう。
ここで、直接に日本に対することなので、もう一つだけあげてみる。それは、自国だけではなく世界の安定のためには、日本は核武装すべきである、というトッドの提言だ。この提言は以前よりのもので、今年の5月号の文藝春秋にも掲載されいるそうだ。今回、核大国ロシアによるウクライナ侵攻によって、核を保有する大国が、従来の世界常識に反して、通常兵器による戦争を行う可能性があることが示されてしまったことで、地政学的で合理的な思考に基づいて考えれば、自国を偶然に委ねるつもりがなく核抑止力も有効なら、核の傘も核共有も幻想であり、選択肢は自国で核保有するのか、それともしないかのどちら以外にはない、と。
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