希望 |
この半世紀の間、世界資源エネルギー問題がどのように変わったのかを見てみようと読んでみた。注目点は主に二点、一点はエネルギー構成の変化、もう一つは地政学的視点からの変化。本書も著者も私は知らなかったが、東洋経済オンライン記事に載っていたので買ってみた。なお本書は、著者が早大で行った講義に基づいた記述とのこと。
エネルギー構成の変化が産業の拡大に重大な影響を持つだろうこと(どちらが原因かは興味があるが)、また、地政学的には国力の最も重要な源泉が人口と資源エネルギーであること、それらはいずれも50年前と同じだ。だが、その内容はかなり違っている。その間に現実に生じた大きな変化は、GX(green transformation)の必要性が広く認識されてくるような状況と、意識の上ではその真逆にみえる、近代の劣化という状況、に見てとることが出来そうである。以下、この半世紀間の変化について、本書の記述から幾つか記憶に残ったところを想い起こしてみた。
- 世界全体のエネルギー構成は、減少気味ではあるが相変わらず化石燃料が中心で、原子力は想定されていたよりも伸び悩み、再生可能エネルギー(要するに太陽エネルギーの循環に人間社会が乗ること)が思いの外増加してきている。
- 化石燃料供給力のトップはロシアであり、二番手は米国である。この二国がダントツで、石油の上に浮いていると言われていた中東ではない。欧州の北海を含めてその他いろいろな地域から海上油田・ガス田を含めてoil&gasが採取されている。米国が自給のみならず輸出するほどダントツなのは、堆積岩層内のoil&gasを採取可能にした技術による。探査・掘削・採取等の技術がそれらの化石燃料のコストを下げた分だけ、供給可能になるという現実は変わらず、近代が劣化しようとしまいとこれからも変わらないだろう。つまり、そのコストは誰がどこでいつどうやって決めるのか、が核心だ。
- 需要のダントツは中国で、二番手は米国である。人口や工業化の観点で見れば中国の状況が予測通りであるほか、今後インド、ASEAN、や最近の言葉で言えばグローバルサウスの国々の需要増は明らかだろう。国際協調の枠組みが化石燃料の採取の制限を可能にしない限り、GXなどは絵に描いた餅だということは本書のデータから容易に予測できる。
- 地政学の問題は三つのE(Energy security,Enviroment,Economic efficienncy)の視点で考えると良いと著者は指摘しているのはもっともだが、同時に、具体的な国家戦略における優先順は国家の都合により異なり、かつ三つのEは相互に関係しているとも指摘してる。では、日本国はどうするのか、について考えるネタを本書から読み取るなら、それはGXだろう。
- ヨーロッパの人々はロシアの天然ガスパイプラインによって今まで生活が出来ていたが、ロシアのウクライナ侵攻によって突然先が見えなくなってきた。ロシアの天然ガスの恩恵を最も受けてきたドイツはたちまち脱原発政策の変更を余儀なくされている。フランスは原発が電力供給の中心であることは変わらない。イギリスはロシア産天然ガスの依存度が低く、エネルギーの自給率も高いので当面(数十年か)は大丈夫だろう。
- 原発については、現時点では米国、フランスについで中国が三番目に多い。建設中は中国がダントツに多い。米国のスリーマイル、ソ連のチェルノブイリ、そしてそれらに続いて起こった日本の福島の事故は決定的な影響を世界に、特に欧州においてもたらしたのは周知の事実だが、欧州においてはロシアのウクライナ侵攻を受けて、地政学的視点から、新たな現実が生じつつある。新型炉開発は、中国、インド、ロシアが世界をリードしている。
- 再生可能エネルギーが思いの外増加しているのは、GXの流れの一環だが、注目すべきは、再生可能エネルギーの製造設備を担っている中心は中国企業であることだ。これは今後のエネルギー需要の伸張地域としてだけでなく、地政学的見地からも興味あることだろう。
- 最後に、本書のデータから、再生可能エネルギー(要するに太陽エネルギーの循環に人間社会が乗ること)が持続的可能エネルギーとして可能になる条件は、人類の知識を利用しつつ、対立ではなく共感へ、人類の驕り高ぶった意識をより謙虚な意識へ、と向かうように配慮し続けるほかはない、というのが私の感じ。現代は、科学の合理性の価値に気付かざるを得ない機会が与えられた画期であった、と後世の歴史家に認められるようになったらいいね。
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