益川敏英先生は2008年のノーベル物理学賞を授賞しました。その夜、受賞の感想を聞かれて「たいして嬉しくない」と言っているのをTVなどのマスコミ報道で見て、何でそんなことを言うのだろう?と素直に思いました。
しかし昨日、フトしたきっかけで先生が2005年に新書で書かれた『科学者は戦争で何をしたか』という本を読んでみたら、先生のへそ曲がりは筋金入りでたいしたもんだ、その心意気は見習わなければならないと、自分の鈍感さに反省させられました。この本の帯には「科学の中立性が危うくなり、研究室も市場原理に左右され、軍事利用技術も活発化しています。加えて昨今の安倍政権の動きを見ていると、危機感は募るばかりです。(中略)私はこれからも地球上から戦争を無くすためのメッセージを送り続けたいと思います。」と書いてあります。
本書のタイトル『科学者は戦争で何をしたか』という歴史上の負の諸事実は沢山あって、わかりやすいのは兵器への利用であり、極めつきは核兵器でしょう。益川先生は、科学は正と負の両面を持つ諸刃の剣なので、中立性を保たねばならないと言われます。科学の中立性とは、科学がその時々の権力に従属しないということだろうと思います。これは近代の歴史経験から学んだ人類の知恵、新しい概念を示しているのかもしれません。丁度近代の民主政がその歴史から学んだ智恵、権力の分散のように(科学技術はそれだけ人類社会に与える影響が大きいもの、しかも将来的影響の具体的内容は誰も分からないもの、つまり人類史上の民主主義と同じように、となった)。所詮そんなことは出来ないという考えは、この場合には、人類滅亡へと直接に繋がるものなので止めた方が良いと思います。人間は、共倒れで滅亡するような、そのような生き方をから少しずつ逃れ続けて折角今日までやってきたのですから。