芳純:良い香りです |
旧ロシア社会の分裂した実存を背景にして描かれた分厚い人間・社会洞察がすごい本だ。一言で言えば、150年程前のロシア事情を背景に置くことによって、人間存在の本質を鋭く抉り出した父親殺し推理小説仕立ての社会派小説。内容が分厚い上に多様なので、読むたびに新しい発見があり、その度に深く考えさせる小説だ。因みに今回は一回目の通読。
日本で言えば幕末の頃、ヨーロッパ後進地域のロシアでは、近代の形式を取り入れつつも、その社会実体は農奴と貴族に分裂し、精神は伝統的キリスト教に支配されていた。そのことは実存の分裂と後の共産主義革命の芽を育んでいたのだろう。欲望、良心、自尊心、嫉妬、絶望、希望、等々人間存在の本質の様々な側面が、親子、村落や宗教の共同体、男女、世代等の様々な関係から抉り出され、それがカラマーゾフ的と言うロシア社会の本質も抉りだしている。
ソ連の崩壊はカラマーゾフ的精神の復活で、ヨーロッパ近代への運動の続きかも。すると、昨今の日本の状況が思い浮かべられてきたりして、やはり優れた古典は、あらぬ想像もかき立てるものだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿