漂流民、という言葉は知っていたけど、有名なところでは中浜万次郎とか、漂海民というのはそれとは違う。陸より海に住みつつ海を生業として暮らしていた人々のことらしい。
著者は「日本漁業経済史」を専門とする方で、『漂海民』は1963年に岩波新書で出版され、その後アンコール復刊版を2014年に読んだ。動機は、国とは何であろうか、という素朴な疑問の答え探し、というと大袈裟だが、そういうこと。
感想を一言で言えば、人々の生業があって、それから国家があるということを思い出させてくれる本、ということになろう。
暮らしていけるなら、陸でなくて海でも良い、これは当たり前なのかもしれない。古来、海を住居として一生を暮らす人々が居たらしい。もちろん陸にあがって物資を調達したりいろんな用を足すとしても。
文献にでてくるのは中世頃らしく、中国大陸沿岸部、日本列島などアジア各地での存在が記録されているとのこと。日本においても最近までそのような生活形態をとって生業を立て暮らしていた人々が居た。一般にマイノリティーがそうであるように、彼らも差別の対象であった。
彼ら漂海民には多くの謎があるが、何か現代において忘れられている、生きることに関わる大切な価値を継承してきた人々なのかもしれない。それは、海という圧倒的な自然によって生かされているという意識、陸上の農耕・牧畜のように人為的に食べ物を生産したり、また富を蓄えようとも思わない意識、行き場がなくなれば未知の世界に漕ぎ出す他はない、というのかそれができる、という意識、そのような意識がつくり出す価値かもしれない。
0 件のコメント:
コメントを投稿