1月に咲いたバラ |
実際本書は、それだけ貴重な人類の文化遺産なのである。著者(ヘロドトス)の行動力や博識もさることながら、人間の理性に信頼を置いたその合理的態度にはひたすら感服するのみで、学の精神とはそのようなものだろうと、前田先生の本書に対する名講義とともに、そのことだけは良く覚えている。
紀元前五世紀頃に著されたこの本は、次のような感動的な文章で始まる。『本書はハリカルナッソス出身のヘロドトスが、人間界の出来事が時の移ろうとともに忘れ去られ、ギリシャ人や異邦人(バルバロイ)の果たした偉大な驚嘆すべき事跡の数々---とりわけて両者がいかなる原因から戦いを交えるに至ったかの事情---も、やがて世の人に知られなくなるのを恐れて、自らの調査したところを述べたものである』
ここには、過去や現在の本当のことが後世に知られなくなる事を恐れて、それを調べて、記述して残すという思想が明確に表現されいる。また、実際そのことが当時において可能な限り実行されている。これは実に驚くべき人間の知性だと思う。
物語として通読しても面白いと思うが、そこに語られている個別の出来事も、当時の人の考え方も、ヘロドトスの意見も、歴史の教養が深まればそれだけまた面白くなるのだろう。しかし、それはまた果てしない旅路でもある。
0 件のコメント:
コメントを投稿