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ニーチェ 道徳の系譜(1887年)
(ちくま学芸文庫版。新太正三訳)
「 」内は本文引用。( )内は私の補足。★印は私の一言
四と五
★ここでは、古典文献学者としてのニーチェの語源学に基づいた<よい>と<わるい>の意味の変遷とその理由が述べられる。要点は二つ、一つは、はじめ言葉が表す意味の根拠が事実や客観性にあったものが、主観的なってくると当初の意味からかけ離れた内容に変化すること、もう一つは、近代の西欧政治思想の一つ傾向として原始社会形態への先祖返りが起こっていること、つまり、かっては実力を持った高貴な身分の人々がその内容を失うとともに、賤民であった被征服民族が支配者となりつつある、ということ、とニーチェは言う。
六
★ニーチェには大嫌いなものは沢山あるがとくに僧侶階級が大嫌い。そろそろ<わるい>が<よい>に転倒して憎むべき僧侶階級支配の理論が始まる。禁欲的で非行動的な僧侶階級が精神的優越性を持つようになると、高慢・復讐・明敏・放埒・権勢欲・徳・病気は、より危険となる、とニーチェは表現するが、それは人間の欲望を否定するのではなく肯定することの内に道徳の価値を見出しているからなのだろう。
「最高の世襲的階級が同時に僧侶階級であり、・・・はじめは、たとえば<清浄>と<不浄>が、身分的差別の印として対立する。そしてまた、ここでもやがて<よい>と<わるい>という対立が、もはや身分的なそれではない意味(端的に道徳的意味)において発展してくる。・・・こういう僧侶的な貴族社会の中には、またそこに支配している行動忌避的な、半ば沈鬱的で半ば感情爆発的な習慣の中には、はじめから何かしら不健康なものが潜んでいる。そうした習慣の結果として、いかなる時代の僧侶たちにも殆ど避けがたくこびりついているあの内臓疾患と精神衰弱とが、あらわれてくるのである。」
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